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京都地方裁判所判決 平成30年(ワ)第2382号

       主   文

 

 1 被告らは,原告●に対し,連帯して,1886万5833円及びこれに対する平成28年1月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 2 被告らは,原告▲に対し,連帯して,679万0180円及びこれに対する平成28年1月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 3 被告らは,原告■に対し,連帯して,679万0178円及びこれに対する平成28年1月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 4 被告らは,原告◆に対し,連帯して,679万0178円及びこれに対する平成28年1月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 5 訴訟費用は被告らの負担とする。

 6 この判決は,第1項ないし第4項に限り,仮に執行することができる。

 

       事実及び理由

 

第1 請求

   主文同旨

第2 事案の概要

   本件は,被告○の開設するA病院(以下「被告病院」という。)において入院していたB(以下「B」という。)が,脳内出血に対する手術を受けた後,急性呼吸不全により死亡したことについて,Bの相続人である原告らが,急性呼吸不全の原因は,Bが手術後に継続的に鼻出血し,その血液が気道へ垂れ込んだことによる気道閉塞であり,当直医であった被告△において鼻出血の止血や気管挿管による気道の確保をすべきであったにもかかわらずこれを怠った過失があると主張して,被告○に対し,診療契約上の債務不履行又は使用者責任による損害賠償請求権に基づき,被告△に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,原告●については1886万5833円,原告▲については679万0180円,原告■及び原告◆については679万0178円並びにこれらの各金員に対する平成28年1月9日(Bが死亡した日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求する事案である。

 1 前提となる事実(当事者間に争いがないか,後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

  (1)Bの診療経過等

   ア Bは,平成✕年1月4日(以下,特に断らない限り日付は平成✕年である。),頭痛の症状を訴えて被告病院の時間外外来を受診し,頭部CT検査の結果,脳内出血の所見がみられたため,被告病院に入院することとなった(乙A1・18頁)。Bの担当は,脳神経外科C医師(以下「C医師」という。)であった。

   イ C医師は,1月5日,Bの頭部MRI検査を実施し,その結果,左側頭部内血腫のやや増大が見られ,長径50mmであること,脳幹への影響はないが,今後,脳幹圧迫徴候(心停止,呼吸停止,意識障害など)を認めた場合には,救命のために緊急手術を要し得ると診断した(甲A11~14,乙A1・18,22頁,乙A6~9)。

   ウ C医師は,1月6日及び7日,Bに脳出血に起因するとみられる失語症の症状や,ベッドから起き上がろうとするなどの行動が見られたため,鎮静薬プロポフォールの投与を指示し,Bにプロポフォールが投与された(乙A1・25~28頁)。

   エ 1月8日午前10時29分から午後1時15分まで,C医師の執刀でBに対し開頭血腫除去術(以下「本件手術」という。)が実施された(乙A1・39頁)。Bは,同日午後1時55分から,鎮静のためプロポフォールを投与された(乙A1・40頁)。

   オ 被告病院においては,午後8時30分から翌午前9時までが夜勤の勤務時間であり,1月8日の夜から同月9日の朝にかけて,脳神経外科である被告△が当直医として夜勤に当たった。Bの病棟の夜勤に当たった看護師は,Bの担当看護師であるD(以下「D看護師」という。)を含めた4名の正看護師であった(乙A29,証人D1,2頁)。

   カ Bは,1月9日午前1時40分,急性呼吸不全により死亡した(甲A16)。

   キ D看護師は,カルテに,1月9日午前2時44分,Bの治療に関する同日午前0時から午前1時40分までの経緯を時系列で記載し(以下,同日午前0時から午前1時40分までの経緯の記載を「時系列2」という。),同日10時17分に1月8日午後9時から翌日午前1時40分までの経緯を時系列で記載したが(以下,1月8日午後9時から翌9日午前0時までの経緯の記載を「時系列1」という。),後にそれらの記載について複数回の修正を加えた。また,D看護師は,1月8日午後10時54分,カルテにBの出血状態及びそれに対する評価と対処方針を記載したが,後にその記載を削除した。(甲A10,乙A1)

  (2)Bの相続人

    Bの法定相続人及び法定相続分は,Bの妻である原告●が2分の1,子であるその余の原告らが各6分の1である(甲A1~8)。

  (3)医学的知見

   ア プロポフォール(甲B3)

     全身麻酔の導入及び維持並びに集中治療における人工呼吸中の鎮静のために用いられる薬剤である。プロポフォールの投与中には,無呼吸や低血圧等の呼吸循環抑制が起こる場合があり,重要な基本的注意として,投与中は気道を確保し,血圧の変動に注意して呼吸・循環に対する観察・対応を怠らないようにし,気道確保,酸素吸入,人工呼吸,循環管理を行うことができるよう準備しておくこととされている。

   イ 経皮的酸素飽和度(SpO2)(甲B2・55頁,甲B16)

     動脈血中のヘモグロビンのうち,何%が酸素と結びついているかをパルスオキシメーターで測定して示したものであり,正常値は加齢によって低下するもののおおよそ100~95%である。

   ウ 呼吸不全(甲B2・88頁,甲B15・298頁,乙B6・5頁)

     呼吸不全とは,血液中のガス(O2,CO2)分圧が異常を示し,生体が正常な機能を営むことができない状態をいい,酸素吸入を行っていてもSpO2が93%を示すとき,低酸素血症の要注意領域とされる。SpO2が90%以下を示すときに呼吸不全と判断され,呼吸不全のうち,数時間から1か月未満で経過する(状態が時間単位で変化する)ものを急性呼吸不全と呼ぶ。急性呼吸不全の症状として,循環系は不安定になり,動脈圧の上昇又は下降,頻脈(稀に徐脈)と不整脈,中心静脈圧の上昇がみられる。

   エ 心拍数及び呼吸数

     覚醒状態で安静時における成人男性の1分間の心拍数は,60~80bpm(回/分),睡眠中は50~70bpmであるが,心拍数は年齢の増加とともに減少し,70代の覚醒時の心拍数は60~70bpmである。心拍数が100bpm以上の場合を頻脈という(甲B17)。

     正常な呼吸数は12~18回/分であり,25回/分以上が頻呼吸とされる(甲B14)。呼吸数の増加は,呼吸困難の症状の一つである(乙B6・20頁)。

 2 争点及びこれに関する当事者の主張

  (1)被告△の気管挿管を行うべき義務違反の有無

   (原告らの主張)

   ア Bの急性呼吸不全の原因について

     Bは,1月8日午後9時30分以降死亡に至るまで,鼻出血が継続しており,その鼻出血が鼻腔から咽頭及び喉頭に貯留して血腫になり,1月8日午後11時以降にはSpO2の低下や頻脈といった気道閉塞の兆候が出現した。同月9日午前0時以降,これらの兆候が悪化し,Bは,血腫が気道を閉塞したことによる急性呼吸不全により死亡した。同月8日午後9時30分以降のバイタルサインは,血腫が咽頭及び喉頭に貯留し気道を閉塞していった経過を示すものである。

     被告らは,複数回修正されたカルテの記載について,修正後の最新のカルテの記載が正確である旨主張するが,基本的には訪室直後のカルテが事実に即している可能性が高く,事実に変更があるような矛盾した追記や変更については,合理的な理由が認められない限り,D看護師が自ら確認をして記録をした初めてのカルテの記載が最も事実に近いはずである。

   イ 気道閉塞の予見可能性

     Bは,本件手術後に鼻出血があり,プロポフォールによる鎮静中で呼吸抑制及び気道閉塞を発症する可能性があったことに加え,1月8日午後10時30分には大量出血とSpO2の低下がみられ,同日午後11時台は体位変換や吸引を繰り返し,酸素投与量を増量してもSpO2が改善せず,バイタルサインが悪化していた。このことからすると,同日午後10時30分以降,気道閉塞の兆候は既に出現し,同日午後11時以降は気道閉塞の兆候は悪化していたのであるから,被告△は,遅くとも同月9日午前0時までには,気道閉塞を具体的に予見することが可能であった。

   ウ 被告△の義務違反

     プロポフォールによる鎮静中は,呼吸抑制が起こる場合があるため,予め気道確保をしておくか,呼吸抑制の所見が出現したときに気管挿管により気道確保を行う必要がある。本件においては,被告△は,プロポフォールによる鎮静中に鼻出血が継続し,1月8日午後10時30分にSpO2が90%近くまで低下した時点で,Bに対し,気道確保のための気管挿管を行うべきであり,遅くとも1月9日午前0時までに気管挿管を行うべきであった。そうであるにもかかわらず,被告△は,同日午前1時頃までBのもとを訪れることはなく,その間,気管挿管は実施されなかった。

   エ 因果関係

     被告△が,1月9日午前0時までに,Bに対し,気管挿管を実施していれば,Bが鼻出血による窒息で急性呼吸不全となって死亡することはなかったから,被告△の義務違反とBの死亡との間の因果関係はある。

   (被告らの主張)

   ア Bの急性呼吸不全の原因及び予見可能性について

     Bは,1月8日午後9時30分に比較的多量の鼻出血を認めたものの,本件手術後のバイタルサインは概ね安定し続けていたこと,同日午後10時30分の鼻出血は少量で,酸素投与や体位変換等で止血されたこと,同日午後11時台に看護師が3回訪室しているが,いずれも新たな鼻出血・口腔内出血は認められていないことからすると,同日午後9時30分以降に鼻出血が継続していたとは考えられない。

     カルテは複数回の修正がなされているが,これは,D看護師が,1月8日の夜から9日の朝までの夜勤に当たった看護師らと状況を思い出し,互いの記憶の齟齬を正し合いながら修正を加えたものであるから,最終の記録が最も正確である。

     Bの死因となった急性呼吸不全の一次的原因は,慢性リンパ性白血病であり,そこから急性脳出血及びそれに対する本件手術とその術後管理において,更に①脳内出血又は本件手術後の再出血による中枢性呼吸抑制,②不穏状態に対する鎮静薬による呼吸・気道反射への影響,③吸引処置や経鼻エアウェイ挿入(気道確保)に対するBの強い抵抗や抜管とそれに伴う口腔内又は鼻腔内からの出血が生じ,これらが複合的にBの状態を悪化させた。

     そして,Bが,後鼻出血で形成された血餅が1月9日午前0時45分頃に咽頭・喉頭から上気道に落下したことにより急に気道閉塞を来し,急性呼吸不全により死亡した可能性はあるが,被告△において,そのようなBの気道閉塞を予見することはできなかった。

   イ 被告△の義務違反

    (ア)上記アのとおり,Bが気道閉塞となったのは,1月9日午前0時45分頃のことであり,それまでは血腫等による気道閉塞を予見させるような状態ではなく,同時点以前にBに対し気管挿管を実施する必要はないため,被告△には,同時点以前に,Bに対し気管挿管を実施する義務はない。

    (イ)次の事情からすると,Bには気管挿管の適応はなかった。

     ① Bについては,1月8日午後10時30分に最大毎時10l(以下,毎時の記載を省略する。)の酸素投与の指示が出されていたにもかかわらず,5lの酸素投与とされ,SpO2が94~96%に保たれていたことからすると,酸素療法による経過観察が可能であった。

     ② Bの鼻出血については,看護師らの常時又は随時の観察,見回り,頻回の吸引処置,随時の左右への体位変換などを継続的に行うことで十分に対応が可能であった。

     ③ Bの1月8日午後10時30分から午後11時59分までの血圧,脈拍及び呼吸数の数値はいずれも正常値であった。

     ④ Bは,入院後,不穏状態にあり,本件手術の麻酔からの覚醒後,体動が多く,点滴を抜去しようとしたり,吸引処置や経鼻エアウェイへの強い抵抗感があり,気管挿管が難しい状況にあった。

     ⑤ 気管挿管は,容易な医療手技ではなく,実施のためには麻酔専門家,耳鼻科専門医を呼び出す必要があるが,被告病院においてそのような緊急処置の体制を整えることは現実的ではなかった。

     ⑥ 気管挿管は侵襲性が高い医療行為であり,手術後の再挿管は入院患者における予後不良の原因の一つで,気管挿管に伴い様々な合併症を引き起こすリスクがあった。

     ⑦ プロポフォールによる鎮静中は気道を確保することとされているが,その気道確保の方法として気管挿管をすべきとはされていない。

   ウ 因果関係

     仮に,Bに対し気管挿管が実施されていたとしても,Bを救命できたかどうかは不明であるから,被告△の義務違反とBの死亡との間に因果関係はない。

  (2)原告らに生じた損害の額

   (原告らの主張)

   ア 葬儀関係費用(原告●) 150万円

   イ 逸失利益 1103万9072円

    (ア)Bは,本件手術を受ける前,老齢基礎厚生年金を受給しており,その逸失利益は1103万9072円(265万8096円(基礎収入(基礎年金と厚生年金の合計額))×0.5(生活費控除率)×8.306(平均余命11年のライプニッツ係数))である。

    (イ)原告●がBの死亡後に支払を受けた遺族厚生年金は,平成28年4月改定分の年93万4969円及び平成29年4月改定分の年93万3734円の合計186万8703円であり,同額が原告●が相続した死亡逸失利益と損益相殺される。

   ウ 死亡慰謝料 2000万円

     Bが受けた精神的苦痛に対する慰謝料は,2000万円を下らない。

   エ 原告らの慰謝料

     原告●は同居の配偶者を,その余の原告らは実父を突然亡くしたことで多大な心痛を感じており,その固有の慰謝料は,原告●について200万円,その余の原告らについてそれぞれ100万円を下らない。

   オ 原告らは,前記イ(ア)及びウのBの損害額(合計3103万9072円)を法定相続分の割合で相続した。原告らの前記ア~エ損害額の合計は次のとおりである。

    ① 原告●  1715万0833円

      (計算式)150万円+1103万9072円×1/2-186万8703円+2000万円×1/2+200万円)

    ② 原告▲ 617万3180円

      (計算式)1103万9072円×1/6+2000万円×1/6+100万円

    ③ 原告■及び原告◆ 617万3178円

      (計算式)1103万9072円×1/6+2000万円×1/6+100万円

   カ 弁護士費用相当額

     弁護士費用としては,上記オの損害額の約1割に相当する356万6000円(原告●について171万5000円,その余の原告らについてそれぞれ61万7000円)が相当額である。

   (被告らの主張)

    被告らには何らの医療過誤はないのであるから,原告の損害は被告らの行為との間の因果関係を欠いたものである。

第3 当裁判所の判断

 1 認定事実

   1月6日からBが死亡するまでの経緯は次の(1)ないし(3)のとおり認定することができる。なお,(4),(5)において事実認定の補足説明を加える。

  (1)1月6日及び7日

    C医師は,1月6日及び7日,Bに脳出血に起因するとみられる失語症の症状や,ベッドから起き上がろうとするなどの行動が見られたため,プロポフォールの投与を指示し,Bにプロポフォールが投与された(乙A1・25~28頁)。

  (2)1月8日

   ア C医師は,午前10時29分から午後1時15分まで,Bに対し,本件手術を実施した(乙A1・39頁)。Bは,本件手術後,覚醒が進むにつれ点滴を自己抜去しようとするなど体動が多くなり,経鼻胃管を抜去する際に右鼻出血があったため,午後1時55分からプロポフォールが投与された。Bは,自発呼吸のサポートのため,麻酔科医により経鼻ネーザルエアウェイを挿入されたが,口腔内吸引処置や経鼻ネーザルエアウェイに対して強く拒否したところ,鎮静効果により鼻出血が減少し,呼吸が平静になったため,ネーザルエアウェイは抜去された。Bは,その後,CT検査を受けた後,病室に帰室したが,この間,新たな鼻出血は見られなかった。(以上につき,乙A1・30,31,36,40頁)

   イ C医師は,Bについて,次のとおりの指示を行った。

     SpO2を持続的に測定し,SpO2が97%以下になった場合,酸素マスクで3lの酸素投与を開始する。SpO2が96%以下になった場合,酸素投与量を最大10lまで1lずつ増加し,SpO2が98%以上になった場合,酸素投与量を1lずつ減少させてよい(甲A23)。

   ウ Bについて,手術室から,抜管操作時に不穏状態で覚醒し,胃管を自己抜去した際に鼻出血が見られたこと,鼻出血後の血液の咽頭への垂れ込み等に注意が必要であり,鎮静中であるため呼吸状態に注意し,モニタリングを行うこととの申し送りがなされた(甲A10・66頁)。D看護師は,夜勤を開始する際,前任の看護師から,Bについて,鼻出血があった旨の申し送りを受けた(甲A10・67頁,証人D2頁)。D看護師は,被告△に対し,10分から30分おきに連絡を取り,Bについての指示の確認を行った(乙A16)。

   エ 午後9時10分及び午後9時20分

     D看護師は,午後9時10分及び午後9時20分,それぞれBの病室を訪れたが,その際,Bには鼻出血及び口腔内出血は認められなかった(甲A10・67頁)。

   オ 午後9時30分

     D看護師は,Bの病室を訪れた際,Bに多量の鼻出血を認めたため,Bに対し口腔内吸引を実施したところ,一部コアグラ(血餅,凝血塊)様の血液を吸引した。その際のバイタルサインは,SpO2は100%,血圧147/76,心拍数72bpmであった。D看護師は,吸引後もBの鼻出血が継続していたため,被告△に報告したところ,バイタルサインの変動がないことから経過観察するように指示を受けた。これらの処置や対応には午後10時までかかった。(以上,甲A10・58,67頁,乙A27の1,証人D5,28頁)

   カ 午後10時30分

     Bの鼻出血は止まっておらず,看護師4名で口腔内の血液の吸引及び蝶形骨部の圧迫を試みたところ,鼻腔内は止血した。看護師らは,血液の垂れ込みによる窒息を防止するため,Bを側臥位に体位変換したが,BのSpO2が著明に低下したため,酸素投与量を3lから5lに増加したところ,SpO2は90%台前半まで増加した。(以上,甲A10・57,58,67頁)

     午後10時30分のBの心拍数は84bpm,呼吸数は13回/分であった(甲A15)。

     D看護師は,午後10時54分,Bについて,多量に出血しているため,窒息などの危険因子があること,血腫除去後であり多量出血による合併症も考えられる旨カルテに記載した(甲A10・58頁)。

   キ 午後11時

     D看護師は,Bに新たな鼻出血は認めなかったものの,口腔内に血液が貯留していたためその吸引を行い,清拭した(甲A10・70頁)。SpO2は94%,心拍数は86bpm,呼吸数は20回/分であった(甲A15)。

   ク 午後11時30分

     D看護師は,Bに新たな鼻出血は認めなかったものの,口腔内に血液が貯留していたためその吸引を行った(甲A10・71頁)。SpO2は94%,心拍数は94bpm,呼吸数は24回/分であった(甲A15)。

   ケ 午後11時45分

     Bには鼻出血が認められなかった(甲A10・71頁)。BのSpO2は94%,心拍数は100bpm,呼吸数は21回/分であった(甲A15)。

  (3)1月9日

   ア 午前0時~0時15分

     D看護師は,午前0時,Bに少量の鼻出血を認めた(乙A21の2)。午前0時のBのSpO2は95%,心拍数は99bpm,呼吸数は20回/分,血圧は92/45,午前0時15分のBのSpO2は95%,心拍数は100bpm,呼吸数は28回/分であった(甲A15)。

   イ 午前0時30分~午前0時49分

     D看護師は,午前0時30分,Bの鼻出血を認め,吸引や衣服の交換を行った(甲A10・58頁)。この時のBのSpO2は93%,心拍数は100bpm,呼吸数は26回/分であり,午前0時42分のBのSpO2は90%,心拍数は107bpm,呼吸数は33回/分であった(甲A15)。午前0時46分になると,SpO2は一時33%まで低下し,同時点のBのバイタルサインは,SpO2が38%,心拍数が55bpm,呼吸数が30回/分となった。午前0時49分,BのSpO2は0%,心拍数は39bpm,呼吸数は5回/分となった(甲A15)。

   ウ 午前0時50分~午前1時40分

     D看護師は,午前0時50分,被告△に電話をかけ,午前0時55分,被告△がBの病室に到着したが,同時点でBは呼吸停止及び心停止の状態であった。午前1時,Bに対して,プロポフォールの投与が中止されるとともに,アンビューマスクによる換気や心臓マッサージが開始され,午前1時32分にはBのSpO2は67%まで上昇したが,Bは,午前1時40分,急性呼吸不全により死亡した(甲A10・58,68,69頁,甲A16)。

  (4)診療経過に関する事実認定の補足説明

   ア 前記(2),(3)の認定は,基本的にD看護師がしたカルテの記載のうち修正が加えられる前の記載を基にした。修正が加えられる前の記載が信用できる理由は,イ,ウ認定のカルテの修正の経緯を踏まえると,エのとおりである。

   イ D看護師は,時系列1,2について次のとおり記載及び修正をした。

    (ア)D看護師は,Bの遺体の処理等を終えた後の1月9日午前2時44分,急変時の状況を残しておくために時系列2を記載した(甲A10・58頁・乙A29・4頁)。

    (イ)D看護師は,同日午前3時,先輩看護師に指示され,時系列2のうち,被告△に連絡した時刻を同日午前0時47分から午前0時50分に,被告△が病室に到着した時刻を同日午前0時55分から午前0時50分に修正した(甲A10・58頁)。

    (ウ)D看護師は,同日午前10時17分,看護師長から夜勤の状況を詳しく記録するよう指示され,急変前の経緯から記載することとして,夜勤を担当した3人の看護師とともに,上記(イ)の時系列2の記載に時系列1の記載を加えた(甲A10・67頁,乙A29・4頁)。

    (エ)1月9日午前10時27分,時系列1のうち1月8日午後11時と午後11時45分にそれぞれ「鼻出血・口腔内出血なし」とされていた記載が「鼻出血なし,口腔内出血あり,口腔内吸引実施,刺激による体動あり」に修正された(甲A10・67頁)。

    (オ)1月9日午前10時28分,時系列1のうち1月8日午後11時と午後11時45分にそれぞれ「鼻出血なし,口腔内出血あり,口腔内吸引実施,刺激による体動あり」とされていた記載が「鼻出血・口腔内出血なし」に修正された(甲A10・68頁)。

    (カ)1月9日午前10時46分,時系列1のうち1月8日午後9時に「前勤務者から鼻出血があると申し送りを受ける」とされていた記載が削除され,同日午後9時30分に「吸引後鼻出血継続していたため,当直医報告」とされていた記載から「吸引後鼻出血継続していたため,」の記載が削除され,同日午後10時30分に「看護師4人にて口腔内の吸引・蝶形骨部の圧迫試みる」とされていた記載が削除された。また,同日午後11時の記載に「貯留していた血液を清拭した」との記載が加えられ,同日午後11時30分の記載に「口腔内に貯留していた血液を吸引した」との記載が加えられた。(甲A10・69頁)

    (キ)その後,修正が加えられ,時系列1については1月9日午前11時10分に修正されたものが最終のものであり,時系列2については同日午前11時13分に修正されたものが最終のものである(甲A10・70,71頁)。

   ウ 1月8日午後10時54分の記載と削除

     D看護師は,上記時刻にカルテに次のとおりの記載をしたが,後にその記載を削除した(甲A10・57,58頁,乙A1・28頁)。

    O:鼻腔内,口腔内ともに多量に出血あり。(一部コアグラ状)

      術後不穏が強く右鼻腔からマーゲンチューブを自己抜去されていた。

      プロポフォールにて12/Hにて鎮静中。

      SpO2著明に低下みられたため,酸素5l/Hに増加。

      SpO2 90代前半まで増加みられる。

    A:多量に出血しているため,窒息などの危険因子あり。

      また本日血腫除去後であり,多量出血による合併症も考えられる。

      モニター管理を継続しながら,患者の状態に注意が必要。

    P:脳外科当直医報告。経過観察の指示受ける。

      左側または右側臥位にし窒息予防。

      口腔内に貯留した血液の吸引。

      モニタリング,バイタルサインの変動に注意。

   エ 検討

     時系列1,2の記載は,D看護師が回顧的に記載したものであって(前記イ(ア),(ウ)),最初に記載したものが必ず正確であるとまではいえないし,1月8日午前11時から11時45分の記載が「出血なし」から「出血あり」に修正されている(前記イ(エ))ように被告病院の責任回避の目的のみで修正されたものともいい難く,バイタルサインやその時々にされた措置と整合させるために修正を加えることはあり得る。ただ,D看護師は,修正の理由として,他の当直看護師とディスカッションをしながら適宜修正を加えていったと供述するが(証人D17頁),D看護師が自己の担当する患者であるBに対して執った措置についてBの担当ではない他の当直看護師の記憶がD看護師の記憶より正確であるとは考え難い。また,D看護師は,担当患者の死亡という重大な事態の診療経過を記録するために時系列1,2を記載したのであり,最初の記載の際に内容の正確さに十分注意を払っていたはずであるし,1月8日午後10時30分に「看護師4人にて口腔内の吸引・蝶形骨部の圧迫試みる」としていた記載を削除しているが(前記イ(カ)),当日の当直看護師全員を呼び集めてBの出血への対処に当たったことが記憶違いであったとはおよそ考え難い。

     そして,1月8日午後10時54分の記載は,D看護師がその時点での認識をそのまま記載したものであり,削除する理由が見当たらない。

     そうすると,D看護師のカルテの記載は,基本的に修正される前のものが信用できるというべきである。ただし,1月8日午後11時及び11時30分の出血の吸引の記載については,最初の記載である「鼻出血・口腔内出血なし」の記載から修正が加えられているが,その時点でもバイタルサインが改善していないことと整合させるために修正したものと推認することができ,修正後の記載を基に認定をした。

  (5)D看護師から被告△への連絡の頻度に関する補足説明

    被告△は,当直看護師から10分間おき,長くても30分おきに指示確認の連絡を受けていた旨を陳述書に記載しており(乙A16),原告◆は,Bの死亡後,D看護師から,被告△を何回も呼んだと聞いた旨供述している(原告◆ 5頁)。このことに加え,Bについて,鼻出血があり,鎮静中であるため呼吸状態に注意し,モニタリングを行うこととの申し送りがなされていたこと(前記(2)ウ),D看護師自身が,Bの多量の鼻出血による窒息の危険を認識していたこと(前記(2)キ),1月8日午後10時30分の鼻出血以降,BのSpO2が正常値を下回っていたこと(前記(2)カ以下)からすると,前記(2)ウのとおり,D看護師としては,被告△にこまめに連絡を取ってBの容態を報告し,指示を仰いでいたと認められる。

    被告らは,D看護師が被告△に何度も連絡したとの事実はなかったと主張し,D看護師は,自らが被告△に連絡をしたのは1月8日午後9時30分及び同月9日午前0時50分の2回のみである旨供述する(証人D22頁)が,D看護師の供述は,上記認定に照らして不自然というべきであって,信用することはできない。

 2 争点(1)(被告△の注意義務違反の有無)について

  (1)被告△の注意義務違反の有無についての判断の前提として,Bの死因となった急性呼吸不全の原因について検討する。

   ア 前記認定事実から次の事情を指摘することができる。

    (ア)Bについては,鼻出血後の血液の咽頭への垂れ込み等に注意が必要との手術室からの申し送りがされたこと(認定事実(2)ウ),D看護師は,1月8日午後10時54分の時点で多量に出血しているため窒息などの危険因子があるとカルテに記載したこと(同カ)からすれば,手術室から帰った後のBは,鼻出血の咽頭への貯留によって呼吸不全に陥る危険があると認識できる状態であったといえる。

    (イ)Bには,1月8日午後9時30分から同日午後10時にかけて多量の鼻出血があり(認定事実(2)オ),同日午後10時30分にも看護師4名での対応を余儀なくされるほどのするほどの鼻出血があり(同カ),同日午後11時,11時30分にも口腔内に血液の貯留が認められたこと(同キ,ク)からすれば,Bについては,1月8日午後9時30分以降,継続的に鼻出血が口腔内に垂れ込んでおり,口腔内に貯留する危険が生じていたといえる。

    (ウ)SpO2の正常値は95%以上であり(前提事実(3)イ),C医師がSpO2が96%以下になった場合,酸素投与量を1lずつ最大10lまで増加するように指示していたところ(認定事実(2)イ),午後10時30分に酸素投与量が3lから5lに増量されても,1月8日中はSpO2が94%を上回ることはなく(認定事実(2)カ~ク),その後,1月9日午前0時にはSpO2は95%となるものの,午前0時30分には93%,午前0時42分には90%,午前0時46分には33%と悪化しており(認定事実(3)ア,イ),1月8日午後10時30分以降のBのSpO2はほぼ正常値に達することはなかった。

      また,70代の人の覚醒時の正常な心拍数は60~70bpmであり,心拍数が100bpm以上の場合を頻脈というところ(前提事実(3)エ),Bの心拍数は,1月8日午後9時30分には72bpmであったが,同日午後10時30分から正常値を超えて徐々に増加し,同日午後11時45分以降は100bmp以上となり頻脈となっている(認定事実(2)カ~ケ,(3)ア,イ)。

      さらに,呼吸数については,正常な呼吸数は12~18回/分であり,25回/分以上が頻呼吸に該当するところ(前提事実(3)エ),Bは,同日午後10時30分には13回/分の呼吸があったが,同日午後11時以降の呼吸数は20回/分を超えるという変化が認められ,1月9日午前0時15分以降,頻呼吸が認められた(認定事実(2)カ~ケ,(3)ア,イ)。

      これらのとおり,Bのバイタルサインは,1月8日午後10時30分以降,時間の経過とともに悪化していったといえる。

   イ 前記ア(イ),(ウ)のとおり,Bについては,1月8日午後9時30分以降,継続的に鼻出血が口腔内に垂れ込んでおり,口腔内に貯留する危険が生じていたこと,Bのバイタルサインは,1月8日午後10時30分以降,時間の経過とともに悪化していったことに照らせば,Bの呼吸不全は,鼻出血の咽頭への貯留によって呼吸不全に陥る危険(同(ア))が現実化したものと認められる。

   ウ(ア)被告らは,1月8日午後11時台に看護師が3回訪室しているが,いずれも新たな鼻出血・口腔内出血は認められていないことからすると,同日午後9時30分以降に鼻出血が継続していたとは考えられない旨主張する。しかしながら,D看護師によると,出血の有無の確認について,鼻出血は鼻孔からの出血を目視で確認し,口腔内の出血はBの口を開けて目視できる範囲の出血の有無を確認するものであり,目視できない部分で出血が継続していた可能性は否定できない上(証人D72,73頁),D看護師は,1月8日午後11時及び同日午後11時30分には,新たな鼻出血・口腔内出血は認められないとしつつも,Bの口腔内に貯留していた血液の吸引を行っている(認定事実(2)キ,ク)ことからすると,同日午後10時30分以降も外部から目視できない部分からの鼻出血は継続していたとみるべきである。

    (イ)被告らは,Bの死因となった急性呼吸不全の原因として,一次的には慢性リンパ性白血病であり,二次的には,①脳内出血又は本件手術後の再出血による中枢性呼吸抑制,②不穏状態に対する鎮静薬による呼吸・気道反射への影響,③吸引処置や経鼻エアウェイ挿入(気道確保)に対するBの強い抵抗や抜管とそれに伴う口腔内又は鼻腔内からの出血であり,これらが複合的にBの状態を悪化させた旨主張し,証拠として鑑定書(乙B3)を提出している。このうち,②及び③については,Bの口腔内又は鼻腔内から出血が生じ,プロポフォールの影響により嚥下反射が抑制されて血液が気道に貯留し,気道閉塞を引き起こした可能性があることは原告らの主張と矛盾するものではない。他方,慢性リンパ性白血病については,上記鑑定書はBの慢性リンパ性白血病が急性呼吸不全の原因であるとする根拠を示したものではなく,Bの慢性リンパ性白血病の診断に当たったE病院のF医師によると,Bの慢性リンパ性白血病については,出血傾向はなく,脳内出血とは因果関係はあまりないと考えられるとのことであり(甲A18),その他に慢性リンパ性白血病がBの急性呼吸不全を引き起こしたと認めるに足りる証拠はない。また,①脳内出血又は本件手術後の再出血による中枢性呼吸抑制については,本件手術後にBの脳内で再出血があったことや中枢性呼吸抑制が生じたと認めるに足る証拠はない。

  (2)以上を前提に,被告△における注意義務違反の有無について検討する。

    Bは,本件手術後に鼻出血が生じており,プロポフォールによる鎮静の影響による嚥下反射の抑制や呼吸抑制と相まって,血液が気道へ貯留して気道閉塞を生ずる可能性があった(前提事実(3)ア)。そして,手術室からの申し送りや1月8日の夜勤開始時のD看護師への引継ぎ(認定事実(2)ウ,甲A10・58頁)によると,被告病院内において,Bに本件手術後に鼻出血が生じ,血液の咽頭への垂れ込み等に注意が必要であること,鎮静中であるため呼吸状態に注意してモニタリングを行う必要があるとの認識が共有されていたことが認められ,D看護師は,1月8日午後10時54分までには,Bについて,多量に出血しているため,窒息などの危険因子があること及び多量出血による合併症が生じる可能性があることを認識していた(認定事実(2)カ)。これに加えて,前記(1)ア判示のBの経過からすると,同日午後10時30分以降,鼻出血の継続による気道閉塞の兆候が出現しており,被告△が10分から30分おきにD看護師からBの状態につき連絡を受けていたことからすると(乙A16),被告△において,遅くとも1月9日午前0時の時点においてBの気道閉塞を具体的に予見することが可能であったというべきである。

    そうであったにもかかわらず,被告△は看護師に対して経過観察を指示する以外の措置はとっていなかったのであり,被告△にはBの死亡について注意義務違反が認められる。

  (3)気管挿管の適応について

   ア 被告らは,Bに鼻出血の可能性があるとしても,酸素療法による経過観察や看護師らの常時又は随時の観察,見回り,頻回の吸引処置,随時の左右への体位変換などを継続的に行うことで十分に対応が可能であり,気管挿管の適応はなかったと主張する。しかしながら,看護師らが,1月8日午後10時30分に酸素投与量を3lから5lに増量し,約30分ごとに吸引処置等を行っても,BのSpO2は95%を超えることはなく,C医師の指示どおりに酸素投与量の増量が行われなかったのであるから,鼻出血に対する治療としては不十分といわざるを得ず,被告らの上記主張を採用することはできない。

   イ 被告らは,Bの1月8日午後10時30分から午後11時59分までの血圧,脈拍及び呼吸数の数値は周術期におけるバイタルサインとしてはいずれも正常値であるから,Bに気管挿管を行う必要はなかったと主張する。しかしながら,Bについて,同日午後9時30分まではSpO2は100%であったにもかかわらず,同日午後10時30分には鼻出血が認められるとともに,SpO2が著明に低下し,その後もSpO2が100%近くにまで戻ることはなく,心拍数や呼吸数が増加していったという経緯に照らすと,Bは周術期にあったからバイタルサインが正常値を下回っていたということはできず,被告△においては,周術期におけるバイタルサインの正常値にかかわらず鼻出血による気道閉塞を予見して気管挿管を行う必要があったというべきである。

   ウ 被告らは,Bが,入院後,不穏状態にあり気管挿管が難しい状況にあったと主張するが,Bは,本件手術後から1月9日午前1時までプロポフォールを投与され,鎮静状態にあったため,気管挿管が難しい状況であったとは認められない。

   エ 被告らは,気管挿管は,医師であれば誰にでもできるというような容易な医療手技ではなく,気管挿管となれば,深夜に病院に常駐していない麻酔専門家,耳鼻科専門医を呼び出す必要があり,必ずしも気管挿管の適応があるとはいえない患者のために,念のため緊急処置の態勢を整えることは現実的ではないと主張する。しかしながら,Bは,本件手術後に鼻出血が生じており,プロポフォールによる鎮静の影響による嚥下反射の抑制や呼吸抑制と相まって,血液が気道へ貯留して気道閉塞を生ずる可能性があったのであり,そうである以上,気管挿管を行うことができる態勢を整えておくべきであった。

   オ 被告らは,気管挿管は侵襲性が高い医療行為であり,気管挿管に伴い様々な合併症を引き起こすりスク等があることからすると,気管挿管を軽々しく選択すべきではないと主張する。しかしながら,気管挿管をしなければ呼吸不全により死亡するおそれがある場合においては,気管挿管それ自体が合併症を引き起こすリスク等を有するとしても,気管挿管による救命を優先すべきであるから,被告らの上記主張を採用することはできない。

   カ 被告らは,プロポフォールの添付文書(甲B3)によると,プロポフォールによる鎮静中には気道を確保することとされているが,その気道確保の方法として気管挿管をすべきとはされていないと主張するが,気道確保の方法には当然気管挿管が含まれていると解されるから,これをもって気管挿管をしなくてよい理由にはならない。

  (4)因果関係

    前記(1)のとおり,Bの急性呼吸不全の原因は鼻出血が気道に垂れ込んだことによる気道閉塞であるところ,気管挿管を行っていればこれを防ぎ,Bの死亡結果が発生しなかったと認められる。

 3 争点(2)(原告らに生じた損害の額)について

  (1)Bに発生した損害

   ア 逸失利益

     証拠(甲C12)によれば,Bは,年額合計265万8096円の年金を受給しており,少なくとも11年間は,上記金額の年金を受給できていたものと認めるのが相当である。そして,生活費控除率については,これが年金であること及びその金額に照らし,50%をもって相当と認める。

     そうすると,Bの死亡による年金分の逸失利益は,1103万9072円(265万8096円×8.306×(1-0.5))と認められる。

   イ 慰謝料

     Bが死亡するまでの呼吸状態の悪化等により被った苦痛など本件に現れた一切の事情を考慮すると,Bの慰謝料として2000万円を認めるのが相当である。

  (2)葬儀費用

    甲C1~6,10,11及び弁論の全趣旨によれば葬儀費用としては150万円を認めるのが相当である。

  (3)原告ら固有の慰謝料

    原告●はBの妻であり,原告▲,同■及び同◆はBの子であるところ,被告△の注意義務違反によりBを失ったことによる精神的苦痛は多大なものであったと考えられることから,固有の慰謝料としては,原告●が200万円,原告▲,同■及び同◆が各100万円をもって相当と認める。

  (4)上記(1)ないし(3)の合計額及び損益相殺

   ア 原告●

    (ア)原告●は,上記(1)のBの損害賠償請求権を法定相続分2分の1で相続したことが認められ,これに上記(2)及び(3)の損害額を加えると,1901万9536円((1103万9072円+2000万円)×1/2+150万円+200万円)となる。

    (イ)損益相殺

      証拠(甲C13,14)によると,原告●がBの死亡後に平成28年分と平成29年分の遺族厚生年金として合計186万8703円を受給したことが認められ,弁論の全趣旨によれば平成30年分から令和3年分までこれは損益相殺(逸失利益からの控除)の対象となる。損益相殺後の損害額は,1715万0833円(1901万9536円-186万8703円)となる。

   イ 原告▲

     原告▲は,上記(1)のBの損害賠償請求権を法定相続分6分の1で相続したことが認められ,これに上記(3)の損害額を加えると,617万3180円((1103万9072円+2000万円)×1/6+100万円)となる。

   ウ 原告■及び同◆

     原告■及び同◆は,上記(1)のBの損害賠償請求権を法定相続分6分の1で相続したことが認められ,これに上記(3)の損害額を加えると,各617万3178円((1103万9072円+2000万円)×1/6+100万円)となる。

  (5)弁護士費用

    本件訴訟の審理経過及び内容,上記認容額などを考慮すると,弁護士費用は,原告●につき171万5000円,原告▲,同■及び同◆につき各61万7000円とするのが相当である。

  (6)小括

    以上より,損害額の合計は原告●が1886万5833円,原告▲が679万0180円,原告■及び同◆が各679万0178円となる。

第4 結論

   よって,原告らの請求は理由があるから認容することとして,主文のとおり判決する。

    京都地方裁判所第1民事部

        裁判長裁判官  松山昇平

           裁判官  田中いゑ奈

           裁判官  鵜飼奈美



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