大阪高等裁判所判決/令和4年(ネ)第1260号
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人は、控訴人に対し、3199万0920円及びこれに対する平成30年1月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
4 2及び3につき、仮執行宣言
第2 事案の概要
1 本件は、控訴人が、医師である被控訴人に対し、被控訴人は、控訴人の妻(当時)が被控訴人が経営する病院において凍結されていた控訴人の精子と妻の卵子を体外受精させて分割された胚を、控訴人の承諾がないまま、これを融解して妻の子宮に移植する融解胚移植を行ったことにより、控訴人の自己決定権が侵害されたと主張して、不法行為(民法709条)による損害賠償請求権に基づき、損害賠償金3199万0920円(出生した子の養育に係る費用相当額、慰謝料及び弁護士費用の合計)及びこれに対する不法行為の日(上記融解胚移植が行われた日)である平成30年1月15日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前民法」という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原審は、控訴人の請求を損害賠償金330万円(慰謝料300万円及び弁護士費用30万円)及びこれに対する上記同日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を求める限度で認容したところ、これを不服とする控訴人が控訴の趣旨記載の判決を求めて控訴をした。
2 前提事実並びに争点及びこれに関する当事者の主張は、当審における当事者の補足主張(後記3)を付加するほかは、原判決「事実及び理由」の第2、2及び3のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決を以下のとおり補正する。
(1)原判決2頁15行目から16行目にかけての「本件クリニック」を「▲クリニック(以下「本件クリニック」という。)」と、17行目の「●」を「●(以下「●」という。)」と、24行目の「冷凍保存」を「凍結保存」と、3頁2行目の「冷凍保存されていた」を「凍結保存されていた」と、3頁3行目の「本件手術」を「融解胚移植(以下「本件融解胚移植」という。)」と、5行目、6行目、8行目及び10行目の各「本件手術」をいずれも「本件融解胚移植」と、8行目の「同意書」を「本件融解胚移植の同意書」とそれぞれ改める。
(2)原判決3頁11行目の末尾を改行して次を加える。
「(3)準拠法等
本件については、原審被告である被控訴人の住所が日本国内にあるから、民事訴訟法4条1項、2項により、日本の裁判所が裁判管轄を有し、また、法の適用に関する通則法17条により、結果発生地の法である日本法が準拠法となる。」
(3)原判決3頁13行目、16行目、16行目から17行目にかけて、17行目、19行目、20行目、22行目、24行目、4頁2行目、8行目、9行目及び12行目の各「本件手術」をいずれも「本件融解胚移植」とそれぞれ改め、21行目の末尾を改行して次を加える。
「(被控訴人の主張)
ア 控訴人の主張は、否認ないし争う。
イ 子の養育は親の責任であり、養育費は親が一身専属的に負担するもので、養育費の支出は損害ととらえる性質のものではない。まして、親族でない第三者がその負担を義務付けられるいわれはない。控訴人は、被控訴人に直接養育費を請求する法律構成はとっていないが、被控訴人の行為を不法行為ととらえて養育費を損害の内容としていることは、養育費を直接請求しているのと同じことである。
ウ 三男の出生に関し、仮に被控訴人に過失があるとしても、被控訴人には控訴人の自己決定権を侵害する意思は全くなかったのに対し、●は、その点も認識していたから、被控訴人に対する1000万円の慰謝料請求は、著しく過大である。
3 当審における当事者の補足主張
(1)控訴人の主張
ア 被控訴人は、●から容易に同意書を取得できたのにもかかわらず、これを取得しないまま本件融解胚移植を実施し、かつ、凍結胚の保存期間の延長も行った。被控訴人は、そもそも本件融解胚移植や凍結胚の保存期間延長に夫である控訴人の同意書を取得することが必要であるとは考えず、控訴人の自己決定権をないがしろに扱った。そして、融解胚移植は新たな生命を生み出すもので、医師には生命倫理を順守すべき高度の注意義務が課されているから、これに違反して控訴人の同意を取得せずに本件融解胚移植を行った被控訴人の過失は大きいものであり、また、●の発言を軽々に信じ、生命を扱う医療機関として当然に行うべき措置を何らせず、控訴人の自己決定権を軽視したその過失の程度は、故意にも匹敵する非常に重大なものである。
一方、控訴人は、●から何の相談もなく、かつ、被控訴人からの連絡もなく、本件融解胚移植が実施されることを認識し得なかったものであり、控訴人には何ら非はない。しかも、控訴人は、第3子をもうける意思は有しておらず、それを●に伝えていた。
さらに、被控訴人は、本件発覚後の交渉の場や本件訴訟係属後も、自己の責任を回避するだけの主張等を繰り返しており、これにより控訴人の精神的苦痛は増大した。
したがって、このようなことからすれば、本件における慰謝料額は、1000万円を下回ることはない。
イ(ア)子をもうけることは、親としての義務を負担するということであり、具体的に子を欲するかどうかという自己決定を行う際に、財産的・非財産的扶養義務を負担してもよいかなど自身の財産状況も当然考慮するものであるから、子をもうけるかどうかの自己決定権には、これらを考慮した上で、子が出生することによる財産的扶養義務を負担しない自由を当然含むものである。したがって、第3子をもうけるか否かという被控訴人による控訴人の自己決定権の侵害は、控訴人の扶養義務の負担すなわち財産を減少させることを意味し、被控訴人は、控訴人の自己決定権の内容に含まれる、第3子が出生することによる財産的扶養の義務を負担しない自由も侵害したのであるから、自身の意に反して第3子に対する財産的扶養義務を負わされた控訴人の被害の回復のためには、被控訴人は、第3子の財産的扶養義務の内容である養育にかかる費用相当額を賠償するのが当然であり、控訴人が負担する養育にかかる費用相当額が被控訴人の不法行為と相当因果関係のある損害であることは明らかである。
(イ)オーストラリアにおいて、令和3年12月3日に離婚決定があり、控訴人と●は、令和4年1月4日に同決定の効力により離婚し、子らの親権は、三男も含めて共同親権とされた。オーストラリアで共同親権が定められた場合、一般的には子が両親の自宅を行き来し、一定期間ごとに交互に父又は母と生活することになり、子らは、控訴人と●の自宅を一定期間ごとに交互に行き来することで、交互に控訴人及び●と生活することになっている。そのため、オーストラリアでは、父又は母のどちらか一方が他方に対して養育費を請求することは少なく、子らの生活費を同居している方が負担することが多い。控訴人の場合も、離婚決定において養育費は定められず、子らと同居している期間の子らの生活費をそれぞれ負担することになる。しかし、●の経済的事情から、子らの進学費等は控訴人が捻出しているため、子らの養育にかかる費用が控訴人と●との間で完全に折半されているわけではない。
(2)被控訴人の主張
ア 控訴人の主張は、いずれも否認ないし争う。
イ 控訴人と●が離婚したことは、慰謝料を増額する理由にはならない。
また、控訴人は、控訴人が第3子をもうける意思はないと●に伝えていたにもかかわらず、●が控訴人の同意を得ずに本件融解胚移植を依頼したと主張しており、これを前提とすれば、控訴人の意思に反して本件融解胚移植を依頼した●の帰責性が大きいことは明白である。
ウ(ア)養育費は、本来両親の子に対する扶養義務の履行として支払われるべきものであり、被控訴人が負担すべきものではない。そもそも控訴人が養育費を実際に負担する地位にあるのか不明であるが、いずれにしても、養育費がいくら支払われるべきかという問題は、控訴人と三男又は●との間において別途解決されるべきであり、養育費相当額の具体的損害は発生していない。本来的に養育費を負担すべき第3子である三男の母である●が何らの負担もせず、被控訴人が養育費相当額を負担することは、被控訴人にとって予見不可能であり、また、損害の公平な分担という不法行為の趣旨から考えても、かかる結論が相当ではないことは明白である。
(イ)控訴人の主張によれば、オーストラリアにおいては、子らの生活費を同居している方が負担することが多く、控訴人と●の場合も、離婚決定において養育費は定められておらず、子らと同居している期間の子らの生活費をそれぞれが負担することになるとのことであるが、そうであるならば、養育費の額自体は決まっていないものの、負担額は定まっており、仮に●の資力が乏しいとしても、それは、親権者同士で解決すべき問題で、被控訴人が負担すべきものではない。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前提事実、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1)●は、平成29年12月、容態が良くない父に自分と子らの顔を見せたいとして、長男及び二男を連れて日本に帰省した(甲15[1頁])。
(2)●は、同月13日、本件クリニックを訪れ、被控訴人に対し、翌年1月20日にオーストラリアに戻る必要があるので、それまでに融解胚移植を受けたいと述べた(甲14、乙6)。
(3)被控訴人は、●に対しホルモン治療等を行い、平成30年1月10日、●の子宮内膜の厚みが十分になったので、同月15日に融解胚移植を実施することとした。●は、被控訴人に対し、前提事実(2)エのとおり述べ、控訴人の同意が確認されないまま、本件融解胚移植が実施された。また、●は、胚移植後に凍結胚の保存期間の延長を申し出たので、被控訴人は、これに応じて保存期間を延長することとしたが、これについても控訴人からの同意書は同時点で提出されておらず、控訴人にその意向を確認することもなかった(甲14、乙6、原審証人■〔10頁〕)。
(4)●がオーストラリアに戻る予定としていた日を過ぎても戻らなかったため、控訴人は、●にオーストラリアに戻るように求めたが、●は、妊娠しているので帰国できないと答えた。その後も●はオーストラリアに戻らなかったため、控訴人は、同年4月に来日し、●に対し、長男と二男をオーストラリアに帰すように求めたが、●は妊娠しているので飛行機に乗れないとして戻らなかった(甲15[3頁])。
(5)控訴人は、同年8月、本件クリニックを訪れた。控訴人は、対応した本件クリニックの女性スタッフに対し、●が妊娠しているが飛行機にはいつまで乗れるかと英語で尋ねた。同女性スタッフが移植日から妊娠週数を紙に記載して説明し、控訴人は、同女性スタッフに対して胚移植日についてはこの日なのかと確認したものの、本件融解胚移植に同意していない、あるいは、被控訴人の対応に不満がある旨は述べなかった。同女性スタッフは、その際、本件融解胚移植についての同意書が提出されていないことに気がつき、本件クリニックの男性スタッフが、控訴人に対し、本件融解胚移植についての同意書を渡したが、控訴人はこれをそのまま持ち帰った。また、本件クリニックの✕医師は、控訴人に対し、●が飛行機に乗るための証明書を渡した。被控訴人は、スタッフから控訴人が●が飛行機に乗るための証明書がほしいという内容で来院した旨の報告を受けた。
その後、控訴人あるいは●から、被控訴人に対しては後記(8)記載の書面が送付されるまでは何の連絡もなかった(原審証人■〔5頁ないし7頁〕、原審被控訴人[6頁])。
控訴人は、妊娠中の●が飛行機に乗ることが可能であると知って、●が長男と二男を控訴人から引き離すために嘘をついていると思った(甲15[2、4頁]、17)。
(6)控訴人は、その後オーストラリアに帰国した。
●は、同年○月○○日に三男を出産した。
控訴人は、同月に日本の弁護士に相談したところ、ハーグ条約による子らの返還手続を利用するためには申立期限が短いことから、本件融解胚移植の件よりも子らの返還の手続を先行させることとなり、平成31年4月、●を相手方として、長男、二男及び三男の返還を求める審判の申立てを大阪家庭裁判所にした(甲15[4頁])。
(7)上記審判申立て事件は調停に付され、控訴人と●との間で、令和元年10月15日、①●が長男、二男及び三男を令和2年1月20日限り、オーストラリアに返還する、②控訴人は、子ら3名の渡航日までに●及び子らが居住、生活できる自宅と家具等の準備を完了させる、③控訴人と●は、正社員として稼働する控訴人の給与で婚姻費用を賄えるように互いに協力する、④控訴人と●は、オーストラリアでの控訴人の就労が不可能になった場合は、オーストラリアでの定住を諦め、日本又はスペインに移住することについて協議することとする等の内容を含む調停(同裁判所令和元年(家イ)第4450号、同第4451号、同第4452号。以下「本件調停」という。)が成立した(甲7)。
子ら3名は、令和2年2月にオーストラリアに帰国した。控訴人は、三男も含めて子ら3名をオーストラリアで育てる決意をした(甲15[5頁])。
(8)控訴人は、控訴人代理人弁護士を通じて、被控訴人に対し、控訴人の同意なく行った本件融解胚移植は控訴人の自己決定権を侵害する違法な行為であるとして、同年6月17日到達の書面をもって、損害賠償金6804万3888円の支払を求めた(甲5の1・2)。
(9)控訴人と●について、オーストラリア連邦巡回・家庭裁判所において、2021年(令和3年)12月3日に離婚決定があり、同離婚決定は2022年(令和4年)1月4日に効力が生じ、同人らの婚姻関係は終了した(甲18の1・2)。
子ら3名の親権は、控訴人及び●の平等な共同親権を有し、子ら3名は、控訴人と同居し、隔週で●と過ごすなどと定められている(甲19の1・2)。控訴人と●は、子ら3名に係る金員についてのやりとりを行っている(甲21の1・2)
2 争点に対する判断
(1)本件融解胚移植に対する控訴人の同意の有無
次のとおり補正するほか、原判決6頁3行目から21行目までのとおりであるからこれを引用する。
ア 原判決6頁4行目から5行目にかけての「認定事実」を「上記1認定事実(以下「本判決認定事実」という。)と、6行目の「同(7)」を「同(6)、(7)」と8行目から9行目にかけての「●が本件手術を受けることを告げないまま日本に帰国したという原告の陳述書の」を「甲15(控訴人の陳述書)の、●が本件融解胚移植を受けることを告げないまま日本に帰国した、したがって、控訴人は本件融解胚移植に対する同意をしていないという」とそれぞれ改める。
イ 原判決6頁10行目の末尾に改行して次を加える。
「したがって、控訴人は、本件融解胚移植に対して同意をしていないと認められる。」
ウ 原判決6頁18行目の「認定事実」を「本判決認定事実」と、22行目の「説示のとおり、」を「説示のとおり、動機は特定できないものの、現に、」とそれぞれ改める。
(2)被控訴人の過失の有無
ア 被控訴人は、医師であり、胚の凍結保存については夫婦双方の同意が必要であることのみならず、融解胚移植を実施するにあたっても夫婦双方の同意が必要であることは当然認識していたといえるから(原審証人■、原審被控訴人本人もこれは認めている。)、それにもかかわらず、●の言を軽信して、控訴人の同意を確認せず、それを得ないまま本件融解胚移植を行っていること(本判決認定事実(3))からすれば、被控訴人は、本件融解胚移植を実施するにあたって、これに対する同意の有無を確認すべき義務を負っていたにもかかわらず、これを怠り、それによって、控訴人の同意がないのに本件融解胚移植を実施したものである。
そして、個人は、子どもをもうけるか、いつ、誰との間に設けるかについては人格権の一内容としての自己決定権を有するから、被控訴人が控訴人の同意を確認することなく本件融解胚移植を実施したことについて、被控訴人は、控訴人の自己決定権を侵害したものとして不法行為責任があるというべきである。
イ この点、被控訴人は、控訴人が同意をしていないと想定することはできなかった旨主張するが、前記説示のとおり、被控訴人には控訴人の同意を確認する義務があったものであり、本判決認定事実のとおり、本件クリニックのスタッフが、控訴人が後日本件クリニックを訪れた際に本件融解胚移植について控訴人の同意書がないことに気がついて改めて控訴人に対して同意書を渡してその提出を求めていることからしても、被控訴人は、同意の確認の必要性を十分認識していたとうかがえ、医師として必要な手続を怠ったものであって、被控訴人が指摘する各点を考慮しても、本件融解胚移植の前に控訴人の同意があるものと軽信して本件融解胚移植を実施したことに過失がなかったとはいうことはできない。
なお、本件調停の内容からすると、控訴人と●の婚姻関係には経済的な問題があったことがうかがわれ、その後同人らが離婚に至っているなどからすると、本件融解胚移植が実施された時点において、同人らの婚姻関係は必ずしも円満なものであったとはいえないと考えられるにもかかわらず、そのような状況下において、●が控訴人の子を妊娠することを積極的に希望した経緯が、控訴人及び●の尋問が行われていないこともあって、判然としない。さらに、控訴人は、自己の精子に由来する胚が凍結保存されることには同意しており、令和2年8月に本件クリニックを訪れた際にも、本件融解胚移植の事実を知りながら特に本件クリニックのスタッフや被控訴人に対して抗議する等していないし、三男出生後には三男を含む子らの返還を求め、三男を自分の子として受け入れている。このようなことも考慮すると、控訴人が、本件融解胚移植自体に同意していないと認定すべきことは、上記(1)のとおりであるものの、不同意の具体的内容や不同意に至る経緯については、甲15によってもこれまで説示した以上に特定して認定することはできない。
(3)損害
ア 養育費について
本判決認定事実(9)によれば、控訴人と●は離婚し、子も3名はいずれも控訴人及び●が共同親権者となり、子ら3名は双方の元を行き来して生活することとされ、ここで控訴人と三男との間には親子関係があるが、控訴人及び●は、親の義務として三男も含め子ら3名を養育ないし扶養する義務があり、その養育及び養育にかかる費用の問題は、控訴人及び●とので解決されるべきものである。そして、実際に、控訴人と●は、子ら3名に係る金員についてのやりとりを行っている(本判決認定事実(9))。
確かに、本件融解胚移植がなければ、三男は出生せず、控訴人は三男の養育に対する経済的負担はないことになるから、被控訴人の不法行為と控訴人の三男の養育に対する経済的負担には、事実上の条件関係はある。
しかし、他方、三男が、出生したことによって、控訴人が得る、又は、被る影響は金銭的に算定できないものであって、そのように考えると、三男の養育費を独立して取り上げ、被控訴人の不法行為と相当因果関係のある損害と解すべきではない。控訴人の経済的負担の点については、慰謝料の算定に際して考慮されるべきである。
イ 慰謝料
前記(1)で認定説示したとおり、控訴人は、●との間で第3子をもうけるため本件融解胚移植をするか否かという自己決定権を侵害されたものであって、これによって精神的苦痛を被ったと認められるところ、前記(1)ないし(3)アで説示した事情を含め、本件に現れた一切の事情(特に、控訴人が本件融解胚移植について不同意とする具体的内容や不同意に至った経緯を特定して認定できないこと)を考慮すれば、その精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は、300万円が相当である。
ウ 弁護士費用
本件事案に照らし、弁護士費用は、30万円が相当である。
エ 合計330万円
3 当審における当事者の補足主張に対する判断
前記2のとおりであり、控訴人の主張は理由がない。
第4 結論
以上のとおりであって、控訴人の請求は、損害賠償金330万円(慰謝料300万円、弁護士費用30万円)及びこれに対する不法行為の日である本件融解胚移植が実施された日である平成30年1月15日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるところ、これと同旨の原判決は相当である。
よって、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第4民事部
裁判長裁判官 水野有子
裁判官 遠藤俊郎
裁判官 大島道代