神戸地方裁判所判決 令和3年(ワ)第1804号
主 文
1 被告は、原告に対し、2161万0090円及びこれに対する平成30年12月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを3分し、その1を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。ただし、被告が1700万円の担保を供するときは、その仮執行を免れることができる。
事実及び理由
第1 請求
被告は、原告に対し、3202万1434円及びこれに対する平成30年12月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
原告は、平成30年12月13日、被告●県が設置運営する○○病院(以下「被告病院」という。)の整形外科において、同病院の▲医師(以下「▲医師」という。)により診療を受けた者であるが、本件は、原告が、上記診療のために実施されたミエログラフィー(脊髄造影検査。以下「本件ミエログラフィー」という。)により、原告に脊髄損傷に伴う左下肢麻痺等の障害が残存した事故(以下「本件事故」という。)に関して、▲医師には、①本件ミエログラフィーの際に、脊髄損傷の高度の危険性がある第1腰椎第2腰椎間レベル(L1/2。以下同様に表記する。)の穿刺を行った過失がある、②脊髄損傷の高度の危険性があることについて説明することなく、L1/2の穿刺を行ったことにつき、説明義務違反があるなどと主張して、使用者責任又は診療契約の債務不履行に基づく損害賠償として、3202万1434円及びこれに対する平成30年12月13日(不法行為の日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
なお、以下においても、5個の腰椎(第1ないし第5腰椎)については、それぞれL1ないしL5と表記し、椎間レベルをL1/2(第1腰椎第2腰椎椎間レベル)などと表記する。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲する証拠〔以下、特記しない限り、枝番を含む。〕及び弁論の全趣旨により容易に認定し得る事実)
(1)当事者等
ア 原告は、昭和7年○月○○日生まれの男性であり、本件事故当時86歳であった。
原告は、本件ミエログラフィー前において、妻を介護しながら自宅で生活していたほか、要支援1の認定を受けており、杖を用いて歩行したり、腰痛を理由に買物代行サービスを週に一度利用していた(甲C11・2頁、証人C・5頁)。
イ 被告は、○○病院(被告病院)を運営する地方公共団体である。▲医師は、平成15年6月から令和3年冬頃まで、被告病院で整形外科医として勤務し、脊椎疾患等に関して多数の執刀経験を有する者である(乙○○10・2頁、証人▲・1頁)。
(2)本件ミエログラフィーの実施等(甲○○1~3、乙○○5の2)
ア 原告は、平成30年10月10日頃、腰痛、左下肢痛を自覚し、同月15日、約2年前に椎間板ヘルニアの手術を受けた被告病院の整形外科を受診した。
平成30年10月17日に原告の腰椎のMRI検査が行われ、原告にはL2の新鮮圧迫骨折及びL3/4の脊柱管狭窄症が認められた(甲○○4、乙○○4、8)。そこで、▲医師は、まずは、原告の骨粗しょう症の治療を行ってL2の新鮮圧迫骨折の保存的治療を行い骨癒合が得られるのを待つこととし、L2の骨癒合を得られた後も原告の下肢痛等が軽快されない場合には、L3/4のPLIF(腰椎後方進入椎体間固定術)を行うとの治療方針を立てた(乙○○5の2・750頁、乙○○10・6、7頁、証人▲13頁)。
イ しかし、原告には、L2の骨癒合を得られた平成30年12月の段階においても、左下肢痛の残存に加え、右下肢痛も発症したことから、▲医師は、PLIFを実施することとし、その術前の評価のため、同月13日、原告に対して本件ミエログラフィーを実施した(乙○○10・7頁)。
ウ なお、原告は、▲医師において手技の誤りがあったかについては問題としておらず、この点を過失と構成していないことに争いはない。
(3)その後の経過
ア 原告は、本件ミエログラフィー実施中に痛みを訴え、その後病室に帰室した段階で、左下肢の膝立ができなくなり、左下肢の指先がわずかに動く程度となったほか、膀胱直腸障害が生じ、バルーンカテーテルの使用を要することとなった(甲○○2の1・91頁、甲C3、乙○○5の2・839、850、938頁)。
イ その後、被告病院において入院治療が行われ、原告は平成31年2月5日に被告病院からD病院に転院し、令和元年5月8日に同病院を退院したが、その後も、自宅で介護を受ける生活を余儀なくされた(証人C8頁)。
ウ 原告の上記アの痛みは、本件ミエログラフィーの穿刺による脊髄円錐損傷によるものであり、これにより、原告には左下肢麻痺及び膀胱直腸障害の後遺障害が生じた(甲C3)。
(4)医学的知見等
ア 脊柱(乙▲3、9の1)
脊柱は体幹の軸となる柱状の骨格で、椎骨と椎間板が上下に連結して形成される。椎骨(脊椎)には、頸椎、胸椎のほか、5個の腰椎(L1~L5)、仙骨(5個の仙椎・S1~S5)、尾骨がある。
脊柱管の中にある脊髄は内側から軟膜、くも膜、硬膜の3層からなる髄膜に包まれ、くも膜下腔を満たす脳脊髄液に浸っている。
イ ミエログラフィー(甲▲1~3、9、乙○○3、▲2、5、9の1、乙▲11)
ミエログラフィーとは、スパイナル針を腰椎に穿刺し、造影剤を脊髄のくも膜下腔に注入することにより硬膜管、神経組織の圧迫の位置や程度といった神経根等の形態を評価する脊髄の造影検査である。
ミエログラフィーのために腰椎に穿刺する際には、成人の場合、脊髄円錐(脊髄下端部)損傷のリスクのあるL1/2への穿刺は避け、L3/4に穿刺することが一般的であり、事前にMRI等を行っている場合には、脊髄円錐の位置を確認することとされている。
ウ PLIF(乙▲6)
PLIF(腰椎後方進入椎体間固定術)とは、うつ伏せになった患者の腰部正中を縦に切開し、棘突起から傍脊柱筋群を外側によけ、神経を圧迫している黄色靱帯や骨棘、椎間関節等を切除し椎間板を取り除いた後、空白となった椎体間に患者自身の骨が入ったスペーサーを挿入し、上下椎体にそれぞれペディクル(椎弓根)・スクリューを挿入することで椎体間を固定する術式をいう。
エ 外側ヘルニア(外側型椎間板ヘルニア)
外側ヘルニアとは、脊柱管の外側(椎弓根の内縁よりも外側)に生じた椎間板ヘルニアのことをいう(椎間孔外〔椎弓根の外縁から外側〕のみならず椎間孔内〔椎弓根の内縁から外縁の間〕のヘルニアも含む。)。外側ヘルニアは、椎間板ヘルニアの中でも稀な症例であり、通常の椎間板ヘルニアで障害される高位の一つ上の神経根が障害される。(甲▲5、10、乙○○10・4頁)
3 争点及びこれに対する当事者の主張
(1)争点1(▲医師が、本件ミエログラフィーの際に、L1/2に穿刺を行ったことにつき過失があるか)について
(原告の主張)
原告のようにL1/2に脊髄円錐が存在する患者に対して、ミエログラフィーの際にL1/2の穿刺を行うことは、不可逆的かつ重大な損傷である脊髄損傷のリスクが高いことから、やむを得ない場合を除き、避けるべきところ、本件では、L1/2の穿刺に伴うリスクに見合ったミエログラフィーを行う高度の必要性は見当たらない。そのため、本件ミエログラフィーにおいて、L1/2の穿刺を行うことは避けるべきであったにもかかわらず、同部位に穿刺を行った▲医師には過失がある。
(被告の主張)
否認ないし争う。本件では、次で述べるとおり、原告の年齢、既往症の内容及び程度からすれば、後に施行される手術の時間を短縮し、そのリスクを低減するため、本件ミエログラフィーを実施すべき高度の必要性と有益性があったのであり、L1/2の穿刺による脊髄損傷リスクを踏まえてもなお実施の必要性は否定されない。また上記リスクを可能な限り低減する態様(透視下で都度針先の位置を確認した。)で行われたことも併せると、同部位を穿刺したことにつき、▲医師に過失があったとはいえない。
ア(ア)原告は、平成28年にMRI検査のみでは診断の困難な左L3の脊柱管外の外側ヘルニアであることが確認されているため、本件ミエログラフィーを実施する前の段階における原告の症状についても、L4神経根のみならず、L3椎弓根下縁にてL3神経根の圧迫されている外側ヘルニアが再発した疑いがあり、これを確認する必要があった。
(イ)原告は、上記の既往症のほか、86歳と高齢で、腰椎変性の進行度合い、糖尿病を患っていることによる感染症リスク等を踏まえると、一回的かつ最小限の侵襲での手術を行う必要性が高かったところ、手術の内容は、外側ヘルニアの疑いが否定される場合にはPLIFのみを実施することになり、外側ヘルニアが認められる場合にはPLIFのみならず、引き続いて外側開窓ヘルニア切除術(あるいは椎間孔部除圧術)を行うことになる。そのため、外側ヘルニアの有無によって行うべき手術内容、範囲が異なることになるが、MRI検査のみでは外側ヘルニアは判断困難なため、本件ミエログラフィーを含め術前検査において外側ヘルニアの有無を確認した上で手術内容を確定しておく必要性が高かった。
イ ミエログラフィーは、MRIよりも骨病変の描出に優れており、正確な病状把握、手術方法の立案に非常に有用とされている。前記ア(イ)のとおり、原告の手術は一回的かつ最小限の侵襲で行う必要が高いところ、ミエログラフィーを行うことでMRIのみでは捉えきれないPLIFにおいて切除すべき骨棘の位置等を予め把握して手術計画を立案することができるため、本件ミエログラフィーは、後に行われる原告に対する手術時間を短縮し、手術に伴うリスクを低減することができるという意味でも有用であった。
(2)争点2(説明義務違反の有無)について
(原告の主張)
L1/2はミエログラフィーにおいて一般的に穿刺される部位ではない上、原告のL1/2には脊髄円錐があり、同部位への穿刺は脊髄損傷を引き起こす高度の危険性があったことからすれば、本件ミエログラフィーにおいてL1/2の穿刺を行うのであれば、▲医師は、原告に対して、ミエログラフィーに関する一般的な説明だけでなく、脊髄損傷の危険性やその危険を冒す必要性等について具体的な説明をすべきであったにもかかわらず、これを怠っていることからすれば、▲医師には説明義務違反が認められる。
(被告の主張)
否認ないし争う。本件ミエログラフィーの実施前には、「脊髄造影検査を受けられる患者様へ」と題する書面(乙○○3。以下「本件説明文書」という。)に沿った説明がされているところ、同文書には、予め確認できない患者の身体的事情により、予測できない事態が生じる可能性があることが示されているのであって、原告固有の事情によりL1/2に穿刺せざるを得ず、それによって結果的に原告の左下肢が麻痺するという事象は、これに内包されていたといえるから、説明義務違反があったとはいえない。
(3)争点3(損害の発生及びその額)について
(原告の主張)
原告には次の損害が生じ、その合計額は3202万1434円である。
ア 治療費 86万7431円
イ 入院雑費 22万2000円日額1500円×148日(入院期間)
ウ 家屋改造費 4320円
エ 将来介護費等 1052万7683円
(ア)介護業者等による介護、リハビリ、レンタル費用 682万2422円
原告は症状固定時(令和元年5月8日)で86歳であり、平均余命は約6年である。原告には平均して月額18万円の将来介護費等(介護費用、リハビリ費用及び車いす、ベッド等のレンタル費用)が生じていたと考えられるところ、介護保険料による支払を受けることを考慮し、症状固定日から3年間は自己負担分に相当する月額3万6000円(18万円×0.2)を算定基礎とする。その後の3年間は、介護費が増額していること、介護保険料が支払われるのか不確実であることを考慮し、月額20万円を算定基礎とする。
【計算式】
(最初の3年間)
月額3万6000円×12か月×2.7232(3年のライプニッツ係数)=117万6422円(円未満切り捨て)
(その後の3年間)
月額20万円×12か月×2.3525(6年のライプニッツ係数-3年のライプニッツ係数)=564万6000円
(イ)親族による介護費用 370万5261円
日額2000円×365日×5.0757(6年のライプニッツ係数)=370万5621円
オ 傷害慰謝料 250万円
カ 後遺障害慰謝料 1500万円(後遺障害等級5級相当)
キ 弁護士費用 290万円
(被告の主張)
否認ないし争う。
原告の主張を前提とすれば、本件事故により原告の左下肢には麻痺が生じ、激しい疼痛は生じていないのであるから、これを理由とする慰謝料は認められるべきではない。原告の入院期間に照らして傷害慰謝料は200万円程度と考えるべきである。
原告の障害者手帳(甲C4)では「左下肢機能全廃」とされているものの、当該評価は実情に即した認定ではなかった疑いがあり、後遺障害等級5級相当と認定するのは妥当ではない上、後遺障害慰謝料を算定する際には、本件事故直前期の原告の歩行状態等も考慮すべきである。
原告が高齢であることや、本件事故前の原告の歩行状況等を踏まえると、本件事故がなくとも、家屋改造費及び介護事業者や親族による介護の必要性が生じていたというべきであるから、原告が主張する家屋改造費と将来介護費等の一部については本件事故との間で相当因果関係がない。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実に加え、証拠(甲○○1~3、C10、11、乙○○5、10、証人C、証人▲のほか、後掲する各書証)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。上記証拠中、以下の認定に反する部分は採用しない。
(1)本件事故以前の原告の診療経過等
ア 原告は、平成28年1月17日から、腰痛等を理由に医療法人社団Eクリニック(以下「E」という。)に通院加療し、頚椎症、変形性腰椎症との診断の下、牽引等で治療を受けていたが(乙○○5の1・119頁、乙○○6)、同年5月下旬から6月初旬頃、左下肢痛が出現して歩行困難となった。Eは、同月28日付けで被告病院に対し、原告が左下肢痛を発症し、MRI検査を施行したところ、L3/4にて狭窄を認めたなどとして、「腰部脊柱管狭窄症、頚椎症、変形性腰椎症」との診断名で、原告を精査・加療目的で紹介した(乙○○6)。
イ(ア)本件病院の▲医師は、上記Eからの紹介を受け、同月29日以降、原告の診察をするようになった。
▲医師は、Eの情報提供を踏まえ、当初、L3/4狭窄の場合に一般的にみられるL4神経根の圧迫を想定したが、同外科で撮影されたMRI画像や、ラゼーグテスト等諸検査の身体所見等に照らし、L4ではなく、L3神経根の圧迫を疑った(証人▲・4、6頁)。
(イ)そこで、▲医師は、同年7月7日、原告に対してL3/4の穿刺によるミエログラフィー及びその後のCT検査(CTミエログラフィー)を実施したところ、L3神経根への造影剤による描出が確認されなかった(乙○○5の1・175頁)。これを受け、▲医師は、同日、L3神経根に対して神経根ブロックを注射したところ(証人▲6頁)、原告の左下肢痛が劇的に改善したことから、更にEとは異なる断面で撮影する形でのMRI検査(乙○○7)、L3/4の椎間板造影検査(乙▲4)を行い、これらの結果を踏まえ(証人▲6~9頁)、原告の痛みの原因が主としてL3/4の外側ヘルニアであると判断した。
(ウ)▲医師は、上記判断の下、同月19日、当該椎間板ヘルニアを切除する手術(外側開窓ヘルニア切除術。乙○○5の1・177、342頁)を行い、同手術により、原告の腰痛及び左下肢痛が軽快し、原告は短期間のリハビリを経た後、被告病院を退院した。
ウ 原告は、平成29年3月、L1圧迫骨折が認められたが、コルセット装着等のみの保存的治療の限度での対応がされた。
(2)本件ミエログラフィーの実施等
ア 前記前提事実(2)アのとおり、原告の腰痛、左下肢痛に対し、平成30年10月17日、被告病院はMRI検査を施行し、L2腰椎の新鮮圧迫骨折とL3/4の腰部脊柱管狭窄を認めた(乙5の2・750頁、証人▲11頁)。
そして、L2椎体の骨癒合が得られた後も下肢痛等が軽快しなければ、L3/4のPLIFを行うとの治療方針の下、骨癒合を待ったが、前記前提事実(2)イのとおり、同年12月時点でも生活に支障を来すほどの左下肢症状が残存していただけでなく、右下肢症状も出現してきたため、これらの下肢症状を改善するため、PLIFを行うこととし(乙5の2・775頁)、その術前の評価のため、本件ミエログラフィーを実施することとなった。
▲医師は、本件ミエログラフィー実施直前の段階で、原告にはラセーグ徴候を認めたため上記狭窄箇所から一般的に想定できるL4神経根症状はあると考えたが(乙5の2・754、835頁、証人▲37、38頁)、これに加え、前記(1)の経過から、外側ヘルニアの再発による左L3神経根の圧迫については留保を付しつつも疑いをもっていた(乙5の2・835頁、証人▲12、38、39、41、44頁)。
イ ▲医師は、これに先立って、平成30年12月6日、原告に対して、今後予定される手術の内容のほか(乙5の2・783頁)、本件説明文書(乙○○3)に沿って、ミエログラフィーに関する説明を行った。
本件説明文書には、ミエログラフィーの合併症として頭痛及び造影剤アレルギーが挙げられているほか、「その他、あらかじめ確認できない患者様の身体的個人差もあるため、非常にまれなことですが、予測できない事態が生じる可能性があることについてもご承知願います。」との記載があり、他にミエログラフィーに付随する危険性に言及する記載はない。
ウ 原告は、平成30年12月12日、被告病院に入院した。この時、原告は、歩行器にもたれるような状態で病棟内を歩行していた(乙○○5の2・804、834頁、乙○○10・6頁、証人▲10頁)。
エ 平成30年12月13日、本件ミエログラフィーが実施された。
(ア)▲医師は、本件ミエログラフィー実施に当たり、原告を側臥位にして背を丸めさせ、同医師は背側に立ち、L4/5の腰椎棘突起の間から穿刺を試みたが針先が骨に当たり脊柱管内に到達しなかった。▲医師はさらに、L5/S1(第1仙椎)、L3/4、L2/3の穿刺を順に試みたが、いずれも針先が脊柱管内に到達することができなかった。
そこで、▲医師は、X線の透視下にてリアルタイムで針先の位置を確認しながら1mmずつ慎重に針を進める形でL1/2の穿刺を行うこととした(証人▲19、29頁)。
(イ)▲医師は、原告の脊髄円錐がL1/2高位にあるため、L1/2の穿刺が下位腰椎と異なり脊髄円錐損傷のリスクがあることを認識していたが、原告に対して、特段の説明を行うことなく、L1/2に穿刺を開始した。▲医師がL1/2からの穿刺が可能と考えたのは、原告の脊髄円錐の位置と穿刺する針先の位置関係は、MRI画像上、概ね別紙のとおり、硬膜と脊髄円錐(下端部)との間には間隔があることが確認できており(青の点線が脊髄下端部、赤の実線が針の刺入を示す。)、本件ミエログラフィー実施時の脊髄円錐の位置は、原告に背を丸めさせたことにより別紙のMRI画像におけるよりもさらに若干針から遠い腹側に位置することになると考えていたことによるものであった(証人▲20頁)。
(ウ)▲医師が穿刺を終え、髄液圧測定及びクエッケンテスト(乙▲11)を経て、造影剤注入の段階に入り、相当程度まで注入した段階で、原告が痛みを訴え始め、体動したが、そのまま残りの造影剤を注入し、穿刺針を抜去した。
オ ▲医師は、腰部脊柱管狭窄症のような変性の強い疾患に関しては、術前検査として、原則全例ミエログラフィーを実施していた(証人▲14、51頁)。また、被告病院は、医師側からのニーズもなかったため、MRミエログラフィーを施行できる体制は執っていなかった(乙▲9)。
(3)医学的知見等
ア ミエログラフィーの有用性
ミエログラフィーとは、スパイナル針を腰椎に穿刺し、造影剤をくも膜下腔に注入して硬膜管、神経根等の形態(神経組織の圧迫の位置や程度)を評価するための検査であり、令和3年の時点ではMRIの普及により第1選択の検査ではなくなっているとされ(甲▲1)、不要な検査といえる場合もみられるなどの見解も示されているが(甲▲8)、MRIを施行できない患者には有用であるほか、MRIによって狭窄の部位が判断し難い場合や微妙な神経根の圧迫を確認するために行われることもあり、術前には可能な限り行うとする施設も相当数ある(乙▲8)。MRIよりも骨病変の描出に優れており、ミエログラフィーの後にCTを実施することで、空間分解能の高い画像を得られ、より小さな病変の診断や靭帯骨化症、術前の詳細なイメージ作りに有用であるとされている(甲▲1、3、4、9、乙▲2、5、8、9の1)。
MRIとミエログラフィー等の診断精度等に関するものとして、次のような報告がある。
① 腰椎椎間板ヘルニアに対して手術を施行した70例のうち、MRIによる画像診断とミエログラフィー等による画像診断でヘルニアの形態について画像診断と手術所見を比較検討したが、両者の間に椎間板脱出の診断精度に差がなかった(甲▲4)。
② 脊髄造影率と診断上の問題に伴う再手術の実施率には相関関係が認められない(甲▲8)。
③ MRIでは把握できなかった新たな所見がミエログラフィー等により判明した割合は約1割であった。
また、MRIから決定した除圧範囲とMRIに加えミエログラフィー等から決定した除圧範囲とで一致しなかったものは約半数であり、一致しなかった症例でミエログラフィー等により除圧範囲が拡大したものは約8割である(乙▲8・参考文献①)。
イ ミエログラフィーの描出範囲等
ミエログラフィーは、基本的には脊柱管内から脳脊髄液の及ぶ範囲が描出されるため、椎間孔部、椎間孔外を描出することは困難である。そのため、外側ヘルニアにおいては脊髄造影で有意な所見を認めないことが多い。
従来の造影剤を用いるミエログラフィーの代替として考案されたMRミエログラフィーは、ミエログラフィーと異なり非侵襲的であり、ミエログラフィーで描出が困難とされる椎間孔部の神経根を描出することができる。また、神経根造影もMRミエログラフィーと同様、椎間孔部の形態評価を行う上で、ミエログラフィーよりも有用である。(甲▲1、5~7、10、乙▲8、9の1)
ウ ミエログラフィーの穿刺部位
穿刺部位には、腰椎、C1/2、大槽があるが、原則的には馬尾高位を穿刺する。脊髄尾側端は、成人ではL1/2であるため、L3/4の穿刺が一般的である。腰椎穿刺不能例などの場合には他部位からの穿刺を検討する(甲▲1)。この点、原告側意見書(甲▲3)では、脊髄円錐が通常L1/2にあるため、脊髄円錐損傷リスクのあるこの部位への穿刺は一般的に避けるべきとされている。
エ 合併症
合併症としては、脳脊髄液減少症が最多であり、ヨードアレルギー、痙攣、意識障害、髄膜炎、感染、脊髄症状の悪化などの可能性が挙げられている(甲▲1)。
オ 原告側意見書、被告側意見書
(ア)原告側医師の意見書(F医師。甲▲3)では、他の部位からの穿刺が困難であるなど、やむを得ずL1/2に穿刺する場合もある(もっとも、禁忌とまでは述べていない。)が、本件ではミエログラフィーの必要性は低かったこととの関係では避けるべきであったと述べられている。
(イ)被告側医師の意見書(G医師。乙▲8)では、意見を述べた医師は手術前検査として全症例においてミエログラフィーを施行しているとされる。本件症例での具体的な必要性については主として①平成28年の既往症が挙げられ、他に②上位椎体の圧迫骨折の指摘がされている。
2 争点1(▲医師が、本件ミエログラフィーの際に、L1/2に穿刺を行ったことにつき過失があるか)に対する判断
(1)一般的に、脊髄円錐はL1/2付近に存在するため、ミエログラフィーのためにL1/2に穿刺することはいかに慎重に手技を行ったとしても、また、脊髄円錐とL1/2との間に間隔が空いていることが確認された場合であっても、他の部位からの穿刺に比して、針が脊髄円錐と接触することによる脊髄損傷の危険性が常にあり得るとの点で、より危険性が高くなる関係にある(乙○○4・2枚目、証人▲19、20、58頁)。もとより、脊髄を一度損傷すれば運動機能等に重大な障害が残り、これを回復することが非常に困難であること、他方で、ミエログラフィーが患者のくも膜下腔にまで針を穿刺して造影剤を注入する方法により実施されるため、検査時に患者の僅かな動きや体勢の変更等、術者で制御できない不測の事態が生じうることも併せると、L1/2の穿刺は他の部位からの穿刺に比して相当程度危険性の高い手技であるといえる。そのため、医学上、一般的にミエログラフィーにおける穿刺部位は下位腰椎とされ、L1/2の穿刺は注意すべきであり、必要性が低ければ避けるべきと解されるのであり、かかる危険性に鑑みると、ミエログラフィーを行うに当たっては、当該症例において、L1/2の穿刺を行う場合であっても、他の部位からの穿刺とは異なり、このような身体に対する別段の危険を正当化し得るに足りる高度の必要性が求められるというべきである。
(2)ア そこで、本件ミエログラフィーの必要性について検討するに、脊椎外科を専門とするF医師は、平成30年10月17日に撮影された原告のMRI画像上の所見及びL4神経根支配領域である左の大腿四頭筋(Qu○○d)の筋力低下が認められることから、L3/4の脊柱管狭窄によるL4神経根圧迫であると同定でき、これ以上の追加検査の必要性は低かった旨の意見を述べている(甲▲3)。
イ これに対し、被告は、原告に予定される手術は一回的かつ最小限の侵襲で行う必要が高いところ、①手術の内容や範囲を確定させる上で、本件ミエログラフィーを実施して外側ヘルニアの再発の有無を含め広く責任病巣を特定・確認する必要性があった(以下「被告指摘事項①」という。)、②手術に伴うリスクを最小限に抑える上で、本件ミエログラフィーを実施し、MRIで捉えることのできない切除すべき骨棘の位置等を把握して手術計画を詳細に立案する必要性があった(以下「被告指摘事項②」という。)ことからすれば、L1/2の穿刺に伴うリスクを踏まえても本件ミエログラフィーを実施する必要性があった旨主張し、証人▲も概ねこれに沿う供述をする。
(ア)しかしながら、前記認定事実(2)アのとおり、▲医師は原告については責任病巣は概ねL4神経根であるとしながら、前記の経過からL3神経根の外側ヘルニアも留保を付しつつ疑いは持っていたなどの具体的な状況にあったところ、ミエログラフィーは椎間孔部ないしその外側(椎間孔外)の領域を描出することが困難であり、外側ヘルニアにおいてはミエログラフィーで有意な所見を認めないことが多いとされていることに加え、▲医師も外側ヘルニアの診断のためにミエログラフィーが適していない旨証言していること(証人▲34頁)に照らすと、外側ヘルニアの再発の有無を確認することがミエログラフィーの必要性を基礎づけるものとは認められない。また、椎間孔内等を把握評価する上でミエログラフィーより優れるMRミエログラフィーや、神経根造影を実施したり、L3神経根に神経根ブロックを行い、その効果をみることでL3神経根症状を把握するなどといった(甲▲10)、L1/2の穿刺よりもリスクの低いこれらの手法を先行して実施し、L3神経根の圧迫の有無を確認する方法も存在したところである。
このように、ミエログラフィーが外側ヘルニアの診断に有用とはいえず、他にL1/2の穿刺によるミエログラフィーよりも侵襲性が低く、外側ヘルニアの診断に有用な手段が存在することからすれば、被告指摘事項①は、L1/2の穿刺のリスクに見合った本件ミエログラフィーの実施の必要性があったことの根拠としては、薄弱であるといわざるを得ない。
被告は、本件事故以前の原告の診療経過において、ミエログラフィー及びその後のCT検査(CTミエログラフィー)を実施したことにより責任病巣(L3神経根の圧迫)の特定に繋がったことを指摘し、ミエログラフィーの有用性を強調し、証人▲も本件についても広く責任病巣特定のためルーチンとしての同検査が必須であった旨述べるが、平成28年の診療でもミエログラフィーだけでL3神経根の圧迫を特定できたわけではなく、椎間板造影や神経根ブロック等を行って特定できたものである上、いずれにしても脊柱管の外側の神経根の圧迫を確認する上でミエログラフィーが有用でないことは以上のとおりであるから、これが上記結論を左右するものとはいえない。
(イ)被告指摘事項②についても、たしかに、原告が高齢であることや、本件ミエログラフィーの後に予定されている手術内容等、被告が指摘する事情を勘案すると、術前計画を綿密に立てて原告の手術を一回的かつ最小限の侵襲で行う必要があったこと自体は否定されないものの、▲医師自身も被告指摘事項②が本件ミエログラフィーの実施の主たる理由であるとは考えていなかったとうかがわれる上(乙○○10、証人▲)、ミエログラフィーを行うことにより、MRIで捉えることのできない骨棘の位置等まで事前に把握し、これにより手術の時間を減らし、手術に伴うリスクを低減できる可能性もさほど高くないこと(認定事実(3)ア①)に照らすと、被告指摘事項②も、L1/2の穿刺リスクに見合った本件ミエログラフィーの実施の必要性があったことの根拠としては、十分なものとはいえない。
(ウ)なお、被告が提出するG医師の意見書(乙▲8)では、原告の既往歴等を踏まえると、L4神経根症状と同定することは早計であり、より正確な病態把握のためにはMRIのみでは不安であり、ミエログラフィーを必要とする症例がある旨の意見が述べられているが、同意見書は、本件で問題となっているL1/2の穿刺リスクを考慮した上での必要性までもあったかについて具体的に言及されておらず、前記(ア)・(イ)の説示を左右するものとはいえない。
(3)以上のとおり、脊椎外科を専門とする医師からは、既に責任病巣が特定されており、本件ミエログラフィーの実施の必要性は低いとの意見が述べられている一方で、本件ミエログラフィーの必要性に関して被告が指摘する事項は、いずれもL1/2の穿刺リスクに見合った本件ミエログラフィーを実施の必要性があったことの根拠として十分とはいえないのであって、本件ミエログラフィーにつき、L1/2の穿刺を正当化し得るに足りる高度の必要性があったとはいうことはできない。しかるに、▲医師は、L1/2の穿刺に当たって、本件ミエログラフィーの必要性と、L1/2の穿刺による危険性との衡量や代替手段の有無等について、熟慮することなく、その必要性についての判断を誤ったものであり、その判断に過失があったといえる。
3 争点2(説明義務違反の有無)に対する判断
(1)医師は、患者の疾患の治療のために術前検査を実施するに当たっては、診療契約に基づき、特別の事情のない限り、患者に対し、当該疾患の診断(病名と病状)、実施予定の術前検査の内容・必要性、これに付随する危険性、他に選択可能な検査方法があれば、その内容と利害得失等について説明すべき義務があると解される。
(2)前記認定事実によれば、本件ミエログラフィーを実施する前の段階で、原告のL1/2に脊髄円錐が存在することが判明していること、本件ミエログラフィーの事前説明は、本件説明文書に沿った一般的な説明にとどまり、脊髄損傷のリスクについて具体的な説明は行われていなかったこと、本件ミエログラフィーにおいて、▲医師はL4/5、L5/S1、L3/4、L2/3への穿刺を試みたが針先が脊柱管内まで到達しなかったため、当初予定していなかったL1/2に穿刺することとし、追加の説明をすることなく同部位に穿刺したことが認められる。
前記2で認定説示したとおり、ミエログラフィーの際に一般的に穿刺箇所として選択される下位腰椎とは異なり、高位のL1/2に穿刺する方法でのミエログラフィーは、脊髄損傷という重大なリスクを有するものであって、通常行われるミエログラフィーとは身体に対する侵襲の内容、程度が明らかに質的に異なるのであるから、本件ミエログラフィーの事前説明において、通常の穿刺方法を前提とする一般的な説明にとどまり、L1/2の穿刺特有の脊髄損傷のリスクについて具体的な説明が行われていない以上、▲医師は、L1/2に穿刺する前の段階で、原告に対し、改めて本件ミエログラフィーの必要性の内容・程度、L1/2に穿刺することに伴う脊髄損傷のリスク、他の代替手段の有無等を具体的に説明した上で、L1/2に穿刺する方法でのミエログラフィーを受けるのかを熟慮し判断する機会を改めて与える必要があったというべきである。しかるに、▲医師は、当初予定していなかったL1/2に穿刺する前に、その方法による脊髄損傷のリスク等に関する具体的な説明を何らしていないのであるから(乙○○3、証人▲48、49頁)、説明義務を尽くしたということはできない。
(3)以上によれば、▲医師には説明義務違反があるといえる。
なお、被告は、本件ミエログラフィー実施前の段階で、原告がいち早く歩けるようになって自宅に戻りたい旨を強く要望していたことからすれば(乙○○5の2・817頁、乙○○10、証人▲13頁)、法的に要求される説明を尽くしたとしても、原告はL1/2の穿刺を承諾していた可能性が極めて高く、説明義務違反と損害との間に因果関係がない旨主張するが、L1/2への穿刺は、通常行われるミエログラフィーの際に選択される穿刺箇所への穿刺とは、内容・程度等が明らかに質的に異なる重大なリスクを伴うものであるのに対し、本件ミエログラフィーは術前評価のために行うにすぎず、原告の症状を直接解決するものではなく上記原告の要望実現には直結しないし、術前評価としても限界があるものであることをも踏まえると、上記リスク告知を含む適切な説明が尽くされていれば、原告がL1/2の穿刺によるミエログラフィーを受けなかった高度の蓋然性があるといえるから、これを採用することはできない。
4 争点3(損害の発生及びその額)に対する判断
以上のとおり、▲医師には、本件ミエログラフィーにおいてL1/2を穿刺した過失及び同穿刺に関する説明義務違反が認められ、これによって、原告には次の損害が生じたと認められる。
(1)治療費 86万7431円
証拠(甲C1、2)及び弁論の全趣旨により、これを認める。
(2)入院雑費 22万2000円
証拠(甲C1、2)及び弁論の全趣旨により、入院雑費として、入院期間を通じ、1日当たり1500円の合計22万2000円を認める。
(3)家屋改造費 4320円
本件事故により生じた後遺障害によって、原告の自宅のトイレに新たに手すりが設置する必要が生じ、その設置費用として原告が負担した額が4320円であると認められる(甲C5、11、証人C、弁論の全趣旨)。
(4)将来介護費等 645万6339円
ア 原告の障害の程度及び介護の状況
証拠(甲C3~7、10、11、証人C)及び弁論の全趣旨によれば、原告の障害の程度及び介護の状況につき、次の事実を認めることができる。
(ア)原告は、脊髄円錐損傷により左下肢に高度の弛緩性麻痺があり、立ち上がり、起立位保持、歩行、階段の昇降、洗顔、更衣動作(下半身)等を自力で行うことはできず、全面的介助を要すると評価され、身体障害者3級(左下肢機能全廃)、介護保険につき要介護3の認定を受けている。また、脊髄円錐損傷に伴う膀胱直陽障害により、排尿に支障が生じており、尿器を使用している。
(イ)原告は、平成31年2月5日に被告病院からD病院に転院し、令和元年5月8日に同病院を退院した後、介護を受けながら自宅で生活している。原告は、退院日から介護保険による介護・リハビリサービス、訪問看護及び介護用品のレンタルサービスを利用しているほか、原告の次女(昭和39年生まれ)が、就労しながら朝と夜間を中心に日常的に原告の介護に当たっている。具体的な介護内容としては、週2回の入浴介助のほか、昼食・夕食の準備・片付け、ベッドメイク、尿器洗浄等である。
イ 損害額
以上認定した原告の障害の程度及び介護の状況に照らせば、原告について、D病院を退院した日(令和元年5月8日)から平均余命年数6年間(令和元年簡易生命表男性)にわたり、職業介護人と近親者の併用による日常介護が必要と認められる。そして、介護の内容、程度のほか、原告が利用している介護サービスの利用料が月額平均18万円程度であること(甲C7、弁論の全趣旨)、本件ミエログラフィー実施時の原告の年齢、術前の状態等からすれば、原告は本件事故による受傷がなくとも近い将来介護を必要とする蓋然性が認められることなどの事情を総合すると、本件事故と相当因果関係のある将来介護費等は、平均余命までの全期間(6年)につき、職業介護と近親者介護の併用を前提に日額6000円と認めるのが相当である。
ただし、原告は、介護保険法による助成を受けており、介護費用等の自己負担割合は2割であることから(甲C5~7、弁論の全趣旨)、退院日(令和元年5月8日)から口頭弁論終結時(令和5年9月28日)までの約4年間は、日額2400円を算定基礎とする。
以上によれば、本件事故と相当因果関係のある将来介護費等は、以下の計算式のとおり、合計645万6339円となる。
【計算式】
(最初の4年間)
2400円×365日×3.5460(4年のライプニッツ係数)=310万6296円
(その後の2年間)
6000円×365日×1.5297(6年のライプニッツ係数-4年のライプニッツ係数)=335万0043円
310万6296円+335万0043円=645万6339円
(5)傷害慰謝料 210万円
入院期間等に照らし、傷害慰謝料を210万円と認めるのが相当である。
(6)後遺障害慰謝料 1000万円
原告に生じた後遺障害の内容、程度のほか、原告の年齢、本件事故に至る経緯、本件事故前の原告の歩行状況、その他諸般の事情を考慮すると、後遺障害慰謝料を1000万円と認めるのが相当である。
(7)弁護士費用 196万円
本件事案の難易、認容された額その他諸般の事情を斟酌すると、弁護士費用は196万円と認めるのが相当である。
(8)合計 2161万0090円
5 まとめ
以上の検討によれば、原告の被告に対する使用者責任に基づく損害賠償請求の一部については理由があり、被告は、原告に対して、2161万0090円及びこれに対する本件事故日である平成30年12月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負うというべきであるが、その余の請求は理由がない。
なお、債務不履行による損害賠償請求により認められる損害額は、上記認容額を上回ることはないから、上記認容額を上回る部分は理由がない。
第4 結語
よって、原告の請求は、主文の限度で理由があるからその限度で認容し、その余は理由がないからいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。
神戸地方裁判所第5民事部
裁判長裁判官 天野智子
裁判官 鈴木 喬
裁判官 竹内壮太郎


